2007年5月19日 午後2時半〜5時半 韓国・ソウル 時事日本語社にて

レベル別日本語多読ライブラリー出版記念特別講演会
「日本語教育における多読の意義」

講師:NPO法人日本語多読研究会理事長、JET日本語学校講師・粟野真紀子

 講演会韓国版「よむよむ文庫」レベル1,2の出版を記念して、ソウルの鍾路にある時事日本語学院で記念講演会が行われました。
参加者は在韓日本語講師研究会のメンバーである大学の講師のみなさんをはじめ、語学学校の教師その他70名ほどでした。


第1部 「多読」とは何か?


1)「多読」とは何か?
 
●「多読」とは「やさしいものから順に大量に読むこと」

「英語多読」が今、日本で静かなブームになっている。・・・Oxford Reading Treeを見せながら、どんなものを読んでいくか説明
  大量に読むための多読のルール 
   1 やさしいものから・・・訳読しないで読むため
   2 辞書は引かない
   3 わからない言葉は飛ばす
   4 進まなくなったらやめる


●「多読」と「精読」との比較

精読では、日本語力=語彙+文法 だが、多読は、日本語力=日本語の量 という発想である。
精読は、語彙と文法を分析的に教えるが、それで「読む力」がつくかは疑問である。
いま、日本語教育の世界でも、従来の精読授業への疑問の声が上がってきている。
例えば、野田尚史編(2005)「コミュニケーションのための日本語文法」(くろしお出版)の中で宮谷敦美は、精読について「文法指導と『読む』練習とを混同した考え方である。精読は、一文一文の語彙および文法知識の確認作業であって、日常の『読む』作業とはまったく異なる。(中略)単に語彙や文型を増強するだけでは『読む』能力は身につかない。逆に『一つずつの語は知らないが、文全体の意味はなんとなくわかる』力を身につけさせるべきなのである」(P.175)と述べている。 

●どう読むのか

「お勉強」だと続かない、したがって大量のインプットはできない。楽しいと続く、だから大量のインプットができる。
「多読」は、「楽しい」に重点をおいた読ませ方でもある。

*一人一人がそれぞれ自分に合ったものを読む。一斉にクラスで同じものを読むのではない。
*なるべく一番やさしいものから読ませたい。上級学習者にもそれを勧める(訳読をさせないため)。しかし、これも無理強いしないほうがいい。
*教師は、学習者の読んでいる様子をよく観察し、声をかけ、多読がうまく進んでいっているかチェックする。
なるべく教えない。自然に文脈の中でわかるように導く。
*つまらない、進まないときは、その本はやめて他の本に変えるよう指導する。
*音楽を聴きながら読んでもいいし、眠くなったら無理して起こさない。

2)多読教材開発

●英語には、学習者が読める「読みもの」があるが、日本語にはないということから、作ろうと思い立った。

●語彙をかなり絞って、4つのレベルを設定し、語彙リストを作った。教師としての経験と学習者からのフィードバックをもとにレベル分けをしている。

●レベル別日本語多読ライブラリー「よむよむ文庫」には、小説のリライト、昔話、創作などが入っているが、学習者のさまざまな関心に応えるべく、いろいろなジャンルの読みものがあることが好ましい。「物語の力があるもの=学習者が次を読んでいきたいと思うもの」を書いていきたい。教科書のように文法確認をするための文章は向かない。
例として「みんなの日本語I」の24課の「僕のおばあちゃん」、「An Introduction to Modern Lunguage」第4課の本文を紹介。

●今後は、語彙や文法を無理してコントロールしないものなども開発したいし、市販の本のレベル分けなどもしていきたい。
●たくさんの「読みもの」を作り続けるためのネットワーク作りの必要性などを感じている。興味をもった方がいたら、ぜひ参加してほしい。

第2部  多読授業実践

1)多読授業実践 

JET日本語学校とオランダでの実践

学習者の実感・・・アンケートから
「たくさん読めていい」「読むスピードが上がった」「読書習慣がついた」などの声。

●最初は、読書サークルのようなものから初めて、徐々に正規の授業でやっていってはどうか。

会場に来てくれた「多読」授業体験者(JET日本語学校の卒業生)3人の話。

☆最初は上級なのだからと、小説を読もうと思ったが、訳しながら読んでいたので、遅かった。先生にレベル別読みものを勧められて読んだ。易しいので訳す必要もなく、日本語を日本語で理解している、と実感できた。読み方も速くなった。(H.Kさん)  

☆初めは懐疑的だったが、徐々に夢中で読むようになった。飛ばし読みはできたが、「途中でやめる」ことがなかなかできなかった。帰国後も多読をしている。翻訳では感じられない原文の味が感じられてうれしい。英語をこの方法で身につけたいと思っている。(U.Pさん)

☆多読を先に始めたクラスメートは、文庫本を読んでいた。うらやましいと思いながら、レベル別読みもののレベル1から読み始めた。さくらももこのエッセイにはまって10冊読んだ。その後、小説を1冊読んだのがきっかけで小説も読めるようになった。本が好きになった。(T.Yさん)


<質疑応答> 

Q 声を出して読むのか?声は出しません。
A 学習者は一人一人別のものを黙読し、教師はアドバイザーに徹します。

Q 評価はどうしているのか?
A 日本語学校では評価はしなくてもいいので、していない。日本の大学の英語多読の授業などは、出席とクローズテストなどしているところがある。

Q CDの利用法は?
A 多読と同様、多聴も必要だと考えている。シャドウイングに使ったり、CDを聞きながら読む、というのもよいと思う。CDの速さで文字を追えるようになる。

Q 短期間で日本語上達を考える人にとって多読はどうか? 
A 短期間の効果は多読では上げられないと思う。ただ、短期間に試験勉強をして試験に合格しても、それで日本語力がついたと言えるのかは疑問。

ロビーに飾られた「よむよむ文庫」 読みもの開発と学習効果について 「多読」体験を語る学習者